市場取引と産地直売』

20年くらい前の昔話です。
地元スーパーを経営される
社長さんに会いしました。

「地元特産品コーナーを
 店舗に設けたいから、
 知り合いの農家さんに
 声を掛けて欲しい」
と頼まれました。

数軒の農家さんにお願い
しましたが卸売市場(仲卸)と
競合するからマズイんじゃない?
と忠告されました。

当時の専業農家は卸売市場に
農産物を出荷してましたので
卸売市場(仲卸)を介さずに
地元スーパーとの直接取引
いわゆる『仲抜き』には
ためらいがありました。

個人的な関係で直接販売は
問題視されませんでしたが
「市場外」は卸売市場(仲卸)に
対する造反になるという
意見でした。





当時は生産農家と卸売市場が
良好な関係を維持し農家の
生産物を卸売市場は
安定的に売るという

  暗黙の了解

がありました。ですが私は
卸売市場に優遇されるような
生産農家でなく「市場外取引」に
興味がありました。

社長に説明したところ
「だったら各農家さんと個別に
 付き合って個人取引すれば
 構わないのですか?」 
と質問されました。

「個別取引されるなら
 私が口出しすることで
 ありません・・・」
と答えました。

個人取引を望まれる農家さんを
紹介し各農家さんとスーパーの
個人取引がスタートしました。

ですが卸売市場まで伝わり
農家と市場関係者の懇親会で
話題になり気がつけば私は
『掟破りの主犯格』にされてました。

農協まで巻き込んで卸売市場の
担当者と話合いに出席せざるを
得ない状況になりました。

当時の生産農家は卸売市場に
直接出荷してましたが
決済システムは 
農家⇒農協⇒市場
となってました。





「私のような末端農家は
 卸売市場で先輩農家さんと
 同じ待遇は望めません。
 過当競争時代になれば
 新たな販売先を開拓しなければ
 今後の経営は難しくなります。
 お世話になった先輩農家さんと 
 卸売市場で競争したくありません。
 その代わり私のような末端農家が
 独自に個人取引するのは
 容認して欲しい」
と説明しました。

今後「市場外取引」が主流になると 
私は予測してましたので
偽らざる気持ちを言いました。

卸売市場だけに販売する
農業経営は気楽ですが
逆にリスクになるのでは?
と危惧してました。

バイオテクノロジーを駆使した
高度技術栽培とか
高価設備ハイテク農家さんなら
オンリーワンの農産物を
生産できます。

ですが私の場合
「どのような方法で
 栽培すれば良いか?」
というノウハウを

(1)知ってるか?
(2)まだ知らないか?   

他の農家さんとの違いなんて
それくらいでした。
他の農家さんもノウハウを知り
応用する 『力』を備えられたら
同じ農産物を栽培することは
可能と思ってました。







卸売市場ではセリに掛けられ
卸値が決まりますが
当時は生産物の"良し悪し"に
比例してセリ価格が決まる
という訳でもありませんでした。

見た目とか品質とか言われても
他の農産物と"差"をつけるのは
簡単に成し遂げられることで
ありません。

歴然とした"差"が誰でも分かる
ような農産物を生産するのは
モノスゴク大変です。

卸売市場のセリ価格は
農産物の品質差で決まる
のでなく他の要素が微妙に
絡まってると言えばいいのか・・・

あまり詳しく書けませんが
卸売市場の担当者との
良好な人間関係が大切です!
と言えばいいのか・・・

ですから対人コミュニケーションが
不得意な私は卸売市場の魅力は
薄れてました。

価格(卸値)が人間関係で
左右されないシステムとか
仕組みを私は望んでました。

『商品』の値段を消費者さんに
直接決めてもらうシステムを
模索してましたから
スーパーの特産品コーナーで
直接販売は願ってもない
システムでした。

「人間関係も仕事のうちだ!」
という意見を否定してる訳で
ありません。
誤解ないようお願いします。





農協とか卸売市場の担当者さんは
唖然とされ反論はありませんでした。

『お前だけなら好きにやって
 構わないんだよ』
そんな雰囲気でした。

このような直接販売システムが
他の農家に拡散することが
問題だったみたいです。

ですが既存システムの中に
居る限り先輩は先輩で
権益も当然ですが
先輩が優先的に享受されます。

他の農家さんも大きな声で
言われなかっただけで
私の『考え』と大差なかった
のではと思っています。

暗黙の了解は
暗黙であってこそ
成り立ちます。

暗黙であり続ければ
正式な改善要求できません。
既得権益も先輩有利に
維持継続します。

ですが他の多くの農家さんが
声を出されたら組合は
一人一票が原則ですから
簡単にひっくり返ります。

既得権益を保有される
先輩諸氏は不都合な部分を
お分かりになってましたから
私のような人間が表面化する
ことは(これは推測ですが)
避けたかったのでしょう。

既存システムから外れた
新たな仕組みを構築し
他の農家さんにまで扇動した
行為が掟破りと捉えられた
と感じました。





そして数年後
私が取り組もうとした
『市場外取引』による
産地直売は見かけるように
なりました。

農協直営の産地直売店まで
オープンするという時代に
なりました。

私が取り組もうとした
『市場外取引』を批判された
先輩農家さんは
ある日突然180度転向され
地元のスーパーなどに
『市場外取引』で直接出荷
されるようになりました。

『市場外取引』されることは
ずっと以前からやっていた
かのように当然のように
市場外取引を始められました。

世の中の流れが変われば
ご自身も変わらねばなりません。

私の場合は『市場外取引』に
取り組む時期が数年ほど
早かったと思いました。

その時は変化すべき空気が
まだ漂っていませんでした。
そのような理由で先輩農家さんは
『市場外取引』を否定された
のではと思ったりします。





農作物を栽培する場合
気をつけねばならない点に
連作障害があります。

同じ作物を同じ土地で
連続して栽培すれば
疫病に弱くなり土壌は
養分不足になります。

同じ土地で同じ品種を
毎年生産すれば疫病
害虫が繁殖してきます。

窒素リン酸カリの3要素の
他にも作物毎に必要な
微量要素があります。

ですが毎年連作すれば
微量栄養素が欠乏し
生育低下します。

逆に不要養分は蓄積して
過多障害が起き発育阻害の
原因になります。

大地に根を張る植物は種子を
新しい土地へ移動させる
工夫をしています。

できるだけ遠くへ種子を
移動させるため人間の知恵
では考えもつかないような
手段工夫しています。



風に飛ばされるタンポポの種子は典型的な例です。


毎年同じことを繰り返せば
災いとなる疫病とか害虫が
繁殖し土壌は痩せ植物は
衰退滅亡するしかありません。

水田稲作は毎年の連作が
なぜ可能なのか?  
それは水田だからです。

田植えの時に外部から
大量の水を取り入れます。
河川水に栄養素が含まれ
新鮮な水が荒んだ土壌を
浄化します。





人間社会も同じようなことが
見られます。
生活環境が毎年変化してるのに
人間の『考え方』は変わろうと
しません。

否それより変化しようとすれば
必ずと言っていいほど
昔のままの『思考』を大切に
しようとする人達が潰しに
掛かかってきます。

私事で恐縮ですが
変わろうとする時期が
早かったような気がします。

『市場外取引』に取り組もうと
した時期が数年ほど早かった
ので異端視されました。

ですが変化すべきタイミングが
誰にでもハッキリと分かる時期に
なってからでは遅すぎると
思ってました。

ですが先輩諸氏の多くは
闇雲に非難されるだけで

『なぜ市場外取引を
 私がしようとするのか?』

理由なんて知ろうとされず
聞こうとされませんでした。

それから数年後には
私がやろうとした市場外取引を
批判された方は当たり前のように
市場外取引されてました。



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