新規就農という農業ビジネス


20年以上も前の昔話です。

当時はバブル崩壊で中高年社員の
大リストラが冷徹に起きてました。

日本式の終身雇用制度は崩壊し
厳しい労働環境になりました。

都会のサラリーマンも就農を希望され
各都道府県の農業会議所が主催する
新規就農説明会は盛況に賑わいました。


大企業を退職され園芸農業を始められた
同年代の男性と知り合いになりました。
彼は有名大企業の中間管理職として
勤められてましたが農業をやりたいと
ご家族とともに当地に引っ越しされました。

彼とは数ヶ月に一回くらい
お話しするようになりました。

始めてお伺いした時は数棟の温室で
農産物を栽培されてました。
「園芸用施設は全て自費で建てました」
といわれました。

新規農業を始められる場合には
様々な公的貸付制度があります。
無利子で借りられ返済期間は
3年据え置き10年払いなど
有利な制度もあります。

ですが公的資金を借りるには
書類申請して審査されますので
大変に面倒くさい作業です。

「そんなのが嫌で自費で建てました」
といわれました。

あくまで私個人の意見に過ぎませんが
面倒くさいから公的資金を受けない
というのも「なんか変だなぁ〜」と
思ってました。

大企業のサラリーマンを辞められて
新規就農されたことは、いわば
起業されたのと同じです。

いつでも好きに使える現金は手元に残し
「無利子資金制度」くらい利用されて
よかったのではと思いました。

ですが、
私の知らない事情があったかもしれません。
迂闊なことは言えなかったような記憶が
残っています。


彼は施設園芸農家として熱心に
取り組まれて農業経営されてましたので
余計なことを言う必要はありませんでした。

営利目的のビジネスとして
当時の彼の農場を拝見した限り
充分すぎるほど素敵な農作物を
栽培されてました。
そして、
多品種の少量生産を主体にされ
いつでも換金できる生産システムを
執っておられました。


彼の栽培方法は、農産物一つ一つを
手作りされるような感じでした。

多品種少量生産の場合
各品種ごとに栽培管理やスキル
ノウハウなどが違ってきますので
とても難しい作業になりますが
新規就農者の彼は上手に
こなされてると感心しました。

一つの品種を大量生産すれば
栽培管理も一律で単純作業の
繰り返しになりますが
相場が下落すれば大赤字です。

多品種を少しずつ生産すれば
その中の数品種は高く売れる
可能性があります。

彼の栽培方式は職人技で
マニュアルがあれば誰でもできるといった
単純作業でありませんでした。
逆に言えば
栽培面積を拡大して、大量生産したくても
なかなか難しい農業形態になります。

各品種ごとに栽培管理を細かくチェック
せねばなりません。

ある程度のノウハウがあれば
誰でもできる栽培システムなら
生産施設の面積を拡大して
大量栽培は可能ですが
熟練した職人技が必要なシステムは
栽培面積を拡大すれば、
スタッフを養成せねばなりません。

そういう意味で、彼の栽培システムは
栽培面積の拡大が難点になります。

といっても、当時の彼の栽培規模は
彼が1人で作業できる最適の面積で
「よく考えられておられるなぁ〜」
と感心しました。

とても堅実な農業をされてました。
横着でズボラな私には
「マネしたくてもできない」
と痛感しました。

数年間、彼と付き合ってましたが
いろんな事情で会わなくなりましたが、
数年後に、
彼は栽培施設を一気に数倍も大増設されたと
知り合いの業者から聞きました。



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